解っていたよ お前が俺の物にならないことぐらい、は。 白くて細い、その体は いとも簡単に、崩れ落ちた。 紅は白い顔にも体にもよく似合って 思わず笑みが深くなる。 …刹那、一つの感情が生まれた。 見逃すとでも思ったのか? 死の間際に微笑む、その動きを。 共にいた幕府の人間は 血を溢す細い体を抱く。 俺の物にすべく殺したというのに 人間ごときにそれを奪われるのか? 紅の海、それが動かぬその体を攫う。 奴から引き剥がすように そして俺に近づいてくる 「愛してるよ、神楽」 嗚呼、解ったよ お前が愛してお前が愛されたこの男は ねぇ神楽 俺達と同じだろう? お前を失っても涙を零しはしない 憎しみで愚かにも俺を殺そうとする 憎しみの感情を、俺だけが持つのは不公平 ならこの男にも それを持たせてあげよう? 死んでなお お前を愛し続けるこの男に 掬いあげた浮かぶ体は、思いの外軽く 目を虚ろに開いた躯はくたりと腕を、足を投げ出した。 紅に染まる唇は 生きていた時よりも紅く 口付けた時に広がった血の味は何よりも甘い。 そして、
お前は俺の物じゃなかった けれど今は違う お前を俺だけの物にしてあげるよ 虚ろな瞳も、紅の唇も、もう動かないその体も全て 憎しみに狂いながら、憎しみに狂うこの男を殺して 何度でも、愛してると 紅の海の中で、囁いてあげるから