まったく君は可愛くてどうしようもなくて
だから食べちゃいたいなぁなんて思ったりするわけなんだけど
流石にそれは自重するから
せめてこのくらいは、許してね?
「お兄ちゃん!」
呼ばれて振り返ればそこにはランドセルを背負った可愛らしい女の子が立っていた。
「お兄ちゃんは今からお家?」
「うん。ユキちゃんも?」
「うん!いつもはキヨテルお兄さんかミキちゃんが車とかバイクで乗せてってくれるんだけど、今日は2人でお仕事だからユキは一人でお留守番。」
「そっか。…途中まで一緒に帰る?」
「いいの…?」
心配そうに俺を覗きこむ顔がまた可愛くて堪らない。
「もちろん。」
「やったー!」
そんなに喜ばれるんなら、俺だって勿論一緒に毎日帰りたいし、
何て言ったってあのロリコン疑惑のある教師にユキちゃんを送り迎えなどさせたくない。
そもそも一つ屋根の下に一緒に住んでいることからしておかしい。確実におかしい。
ミキ姐さんがいなかったらどうなっている事か、想像もしたくない。
「ユキちゃんは学校楽しい?」
「うんっ。ユキはボーカロイドだけど、皆が仲良くしてくれるから楽しいよ!」
”小学生ボーかロイド”と名付けられてしまったからには、小学校に通わないわけにもいかない、という大人の事情から、ユキちゃんは小学校へと毎日飽くことも無く行っている。
まだ一年経ってないとはいえ、一年たったところで進級もできないから可哀相だと思う。その点、俺に至っては12歳だからと言って強制的に勉強させられることも無いし楽だ。
「でもね、ユキ、普通の日にお兄ちゃんとかリンお姉ちゃんとかレンお兄ちゃん、りっちゃん見るとちょっと寂しいな。」
もっともだ。
俺もリンもレンも勿論リツだって、本来ならばまだ義務教育中の年齢に違いない。
それが仕事が無い日は平日だろうが休日だろうが遊び呆けられるのだ。
しかも俺等の家はこの小学校からだってそう遠くない。
「授業中にね、ちょっとお外を見たらリンお姉ちゃんとレンお兄ちゃんが遊びに行ってたの…。ちょこっと羨ましくなっちゃった。」
にっこりと笑う顔が健気で可愛い。けれど、その顔はやっぱり悲しそうだ。
「でも、ユキお歌も学校も頑張るよっ!一杯歌って、皆に笑顔になってもらうんだもん。」
「…ユキちゃん…」
「だからお兄ちゃん、ユキ応援してくれると嬉しいな…」
「当たり前だよ、俺はいつだってユキちゃんが大好きなんだから。」
パッと顔を明るくして、ユキちゃんは嬉しそうに飛び跳ねる。ああ、やっぱりユキちゃんには太陽みたいなこの笑顔が一番似合う。
「ねぇ、お兄ちゃん、」
「んー?」
突然ユキちゃんは俺に囁くように、地面に呟くように言った。
「ユキ、大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになりたいなーって思ってるんだけど、」
だめ?とユキちゃんがほっぺたを赤くして訊いてくる。うわぁ、反則だろそれ。
「ユキちゃんはそれで良いの?」
「だってお兄ちゃん優しいしカッコいいし、ユキ大好きなんだもん…」
きゅ、とユキちゃんが俺に抱きついてくる。…これって両者合意ですか、そうですよね分かりました。
「ねぇユキちゃん、じゃあ俺と約束しよっか。」
「?」
「将来俺のお嫁さんになるって約束。俺はユキちゃんのお婿さんになるよって約束するから。」
「本当に?」
「そ。じゃあこの約束は特別だから、指切りじゃなくて、」