大切な妹が一人増えました。


笑顔が素敵な可愛い子です。










「…お兄ちゃん、って呼んだ方がいいですか?」

え?と隣に座る子を見た。鮮やかな緑色が太陽に反射して、眩しい。

そういや南向きだっけこの部屋、とか全く関係の無いことを考えてみる。

「なんで?…突然だけど。」

ちょっとどきどきした、なんておくびにも出さないように注意しつつ、俺は正面を向き直した。

そうこられるとは思ってなかったのか、その子は目を丸くしてそしてはっとしたように口元に手を当てた。

「あっ、迷惑でしたか!?ごめんなさい、今日お仕事お休みって聞いたので…」

「いや、迷惑とかじゃなくて、全然!むしろ時間空いてて丁度良かった。」

そう答えるとその子はにっこりと笑って、すごくすごく嬉しそうにした。

「良かったです!…えと、それでさっきの話なんですけど、」

「”お兄ちゃん”?」

俺の頭には疑問符ばかりが浮かんでくる。

「っていうか、何て呼んだらいいか分からなくて…その、レン…さんのこと」

そういえば彼女に名前を呼ばれたのはこれが初めてかもしれなかった。







ボーカロイドって凄く複雑だと、俺は思う。

家族って言っても血が繋がってるわけじゃないし、(そりゃ機械だから仕方ないけど)

だから俺等に人間の「きょうだい」関係を当て嵌めようとしても無理があるのは当然だ。

特にミク姉と俺とリンからのルカ姉ってのは凄く戸惑った。

だってルカ姉は設定上(そもそも人間っぽく設定まである時点でボーカロイドは異質かもしれない)

俺らより年上で、っていうか大人で、でも俺等の妹。

そういえばあの時も色々ごたついたけど、今じゃ俺等は「ルカ姉」、ミク姉は「ルカちゃん」、ルカ姉は俺ら三人を「君、ちゃん」付けで呼んでいる。

がっくんの時はもっとすんなりいった。ルカ姉より前だったけど、違う会社だったしなんていうか、キャラ付けも独特だったし、

それになんかサバサバしてて、俺等が軽く「がっくん」って呼ぶのも全然気にしてないし、本人は誰に対しても「殿」付けで呼ぶし。

……だから、今回ここまでまごつくなんて思ってなかったっていうのが本音だったりする。

インタネだから、もうルカ姉を経験してるから、大丈夫。

心のどこかでそう思ってたのかもしれない。

で、この子…”グミ”が初めて来た時俺が仕事で会えなかったってのも多分、マズッた。




設定の年が多分近いから、ミク姉と仲良いのは凄く分かる。

インタネ同士、むしろ本当の兄妹みたいながっくんとの会話や仕草も分かる。

めー姉やカイト兄は大人の貫録って感じだし、ルカ姉は初めての妹分に表情はクールだけど内心…かなりデレデレだ。設定年齢も上下的に問題ない。

リンは女子の特権って奴だか何だかで、俺と一緒に仕事だったのに何故か既にもの凄く仲が良い。

……つまり、俺だけ取り残されてしまったのだ。確実に。










「…あの、」

「っ、あ、ごめん、」

ぼうっとしていた俺を心配そうに覗き込む彼女はとても可愛い。

…本来、年上の人に可愛いとかってあんまり言わないんだろうけど。

話しかけない分観察してた、訳じゃないけど、グミって子は凄く天然だ。ミク姉より酷い。そして作られたばかりだからだろうか、とても純粋で素直。

だから今回のその質問もきっと、俺が先に居たからってことで呼び方を迷ってるだけ。

「っていうか、リンを”リンちゃん”って呼んでる時点で俺の事は少なくとも”お兄ちゃん”なんかで呼ばなくて良いんだよ。」

「でも、」

「グミさんは16なんだし、俺より年上なんだから。自信持っていいよ、”お兄ちゃん”なんて呼ばれるとなんか痒くなってくる。”レン君”辺りが妥当じゃない?」

これ見よがしに肩をすくめて笑ってみせると、彼女もまた笑った。




「…良かった、なんか、レン君を”お兄ちゃん”っては呼びたくないなぁ…って思って、」




「え、」

ちょっとぐさっとくる言葉にたじろぐ。天然って怖いやっぱ。

「あ、っち、違うんですよ!レン君がお兄さんっぽくないとかそういうのじゃなくて、あの…なんとなくだけど、兄妹はやだなぁ、っていうか、」

「…?」

その言い方だと若干嫌われてるように取れなくもないけど…と思ったが、多分そういうんじゃない…と思う。

「私何が言いたいんだろう…?ごめんなさいレン君、なんか、考えがまとまらなくて、」

「良いよ全然。グミさん、そろそろがっくん帰ってくるんじゃない?」

時計を見てあっと彼女が声を上げる。

「こんな時間までお邪魔してすみません…!レン君、今日はありがとうございました!」

「良いんだってば。俺も楽しかったし、グミさんと喋れて。」

玄関の扉を開けて、そこで彼女がふっと振り返った。

「私のことはレン君、”グミ”って呼んで下さい!」

ぺこりと頭を下げて、何も言えないままの俺を放っといて、緑色がドアの向こうに消える。

今日一番の笑顔に…不覚にもその後ミク姉が帰ってきてネギで俺の頬をひっぱたくまで、俺は玄関に突っ立ったままだった。




確かに自分も、グミを妹とは思えない、気がした。







       

―――  は  じ     て  の  !

       







笑顔が素敵な可愛い子が隣にやってきました


多分妹は、増えてないと思います。







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おそくなって誠に申し訳ありません!
色々悩んだのですが初々しいレングミ…もどきです、すみません…!本当はもっと甘くしたかった…んです…
天然さんなグミにレンはこれから振り回されると良いと思います!
こんなものですが受け取って頂ければ幸いです。

奏様、これからも宜しくお願い致します!

2011/09/24 白虎