「お姉さん」
後ろを振り向けば少女が嗤う
自分より幾分か明るく濃い色の緑色のツインテール
これはあんまり血は映えないだろうなぁ…と思った。
そして多分この少女は自分と同じくらいの歳だろうなとも、思った。
「普通、君みたいな女の子が居て良い場所じゃないと思うよ、ここ。」
「でもお姉さんはいるじゃない。」
小奇麗な服、屈託のない笑顔
これ壊したら神様に怒られるかなぁ、と思った。
「私捜してんだよね」
昨日依頼を受けました仕事内容は
「ヤク中に片栗粉売り捌いてる女がいるって」
「あら」
「殺したら金くれるってさ?」
なんか緑色した髪とか言ってたけど、ヤク中の言う事だからアテにならなくてさぁ?
しまいにゃアタシがその女じゃないかとかインネンつけてくるし
一人…いや三人位逝ったかもね、社会のゴミはちゃんとゴミ箱に捨ててきたってことで。いやぁ良いことしたわアタシ。
「アンタ知らない?」
「うーん…知らないなぁ…」
見事に白を切る目の前の女に吹きそうになる。
その綺麗な緑揺らしといてそれは無いんじゃない?
「あれ、お姉さんアタシ疑ってる?」
「っていうかもう間違いなくクロだろうと」
「まぁ仮にアタシがその緑色の髪した片栗粉の女だとして――」
女はじっとアタシの眼を見る。
朝方のネオン街はただの腐臭漂うゴミの塊
その中で一つ、今多分たった一つだけ光ってるのが、彼女の眼だろう。
「アタシなにか悪いことしました?」
「…くくっ」
思わず笑ってしまった。
「アンタアタシのこのカッコ見えてる?」
朝日の爽やかさには到底似合わない
「うーん…血がこびり付いたゴーグルによれよれの作業着、極めつけは…金属バット?」
「分かる事位あるだろうにねぇ…」
え?と女は首をかしげる。アタシの上から下まで視線で舐めつくして、あ、分かった!と声を上げた。
「お姉さん、左利きでしょ!」
そこか、と突っ込みたくなるのを抑えて肩をすくめる。
「怖い、とか思わないわけ?」
「いやぁ、お姉さんイカしてますよそのファッション!」
噛み合ってるんだか噛み合ってないんだかわからないような会話が意外と心地好い。
「あ、お姉さんも緑なんだ、髪。」
「大分染め直してないけどね」
「いやぁ、その位が丁度良いと思いますよ。やっぱカッコいいなー。」
ごそごそ、と路地裏から人の気配がする。
「見つけたぞ…!コイツだ…!」
逝っちゃった眼をした男が緑の女の前にナイフを持って現れる。
「ご苦労だったなぁ野郎!お前が殺した訳じゃねぇから金はやらねぇけど感謝はするぜ…!」
ひゅん、と相棒が金色の体を風を切って男に追突した。
鈍い音が路に響いて、男がその場にうずくまる。
「ゴミはゴミらしくしてな」
近付いて振り下ろせば、案外血の色は綺麗だった。
「アンタさぁ、まだやるつもり?」
「なんのことです?」
「やるならアタシ呼びな。あぁいう奴多いよ?」
相棒を肩に担いで呆ける女に向かって言う。
「アタシはグミだ。アンタは?」
「ミクっていいます、お姉さん良いんですか?こんな気違い相手にしちゃって」
「それも腐れ縁、だろ?」
女、ミクはにこりと笑って言う。
「お姉さんまるでピンチヒッターですね。私頼りにしちゃいますよ?」
「人殺しのピンチヒッターじゃねぇ?」
「愛くるしくて凶暴なパンダヒーローで良いじゃないですか」
「…アタシのクマみて言うんじゃないっての」
溜息を吐いて見やれば馬鹿みたいに笑う女が一人
この子のヒーローになれるんなら悪かないかなぁ…
そう思ったのは、秘密の話。