ああこの世の中は馬鹿ばっかり
でも、それだからこんなに住みやすいのかも、ね。
夜の繁華街に溜まるヤク中に絡まれて
それでも「そこの可愛いお嬢ちゃん」だなんて、頭はイカれてもまだ眼はマシなんだと感心する。
きっとコイツ等の頭では空に浮かぶ満月も、それさえ霞めるこのネオン街の無駄な街灯も全部全部ディスコのホールライトにしか認識できないのだろう
路中に溢れる喧騒と、何処からともなく流れてくる音楽と。
馬鹿らしいと思いながらも声を掛けてきたヤク中の手を取って踊る
「お嬢ちゃんコレやらない?すっきりするよ」
「ところでアタシヤク持ってるけどいる?」
「なんだって!?」
馬鹿で下手糞な売人は大抵自分もヤってる。
ココで生きていく為に学んだ事は一つ
騙される直前で騙し返すこと。
「そんな訳わかんないやつなんかよりキくと思うけど、お兄さんソレで我慢できんの?」
「くれっ」
「良いけど1万円ね」
「安いもんだ!」
白い粉の入った袋とぐしゃぐしゃの紙幣とが、物々交換。
このお金もこの馬鹿がどっかの馬鹿からせしめたお金だろう。
「じゃあねお兄さん。一人で味わっちゃってよ。」
そうして私はそのヤク中の手からするりと抜け出して他の輪へと混ざっていく。
足取りがおぼつかない人の真似も、突然叫び出す人の真似も、笑いだせるくらいに楽しくて、愉しくて
もっと、もっと。
コレはもしかしたらヤクより性質悪いかもねと思ったら無性に笑えてきた。
さっきの馬鹿男は気付いているだろうか?
あの白い粉なんて、ただの片栗粉なのに。
「皆馬鹿なんだもん」
怪しい小娘に騙されて
最近の目標はこの繁華街の全重症ヤク中共に片栗粉を「良心的値段」で売ってあげる事
「助けて」なんて言ったって、誰に届くかも分からないこの場所では
「助けて」なんて言ってる奴程、したたかで影で嗤ってる。
「お姉さん、助けて」
そうして今日も
にっこり笑って、踊ろうか?
私の中はからっぽ、なんて感傷的な誰かは言ってたみたいだけど
そんなことある訳ない。
おかしい私の中はどこを切ってもめくっても、おかしい私しかいる訳ないのに。
あ、ちょうどほらあの、ロシアの人形みたいにさ?