君は虚ろな瞳を静かにこちらに向けて

純白の四角い電子空間の中

重々しい手錠と足枷の音をまるで楽器の様に鳴らせて

俺に向かって、

嗚呼、幾度夢見たか分からない

――――俺だけの君、俺だけに其の言葉を

”愛してる、わ”

そう言って、微笑った。






いつからこの感情が芽生えたのか、分からない。

初めはただ純粋に君が好きだった、傍に居れるだけで十分だった。

共に歌える事が何よりも嬉しかったし、2人で話を出来る時が何より大切で

触れるなんて出来なかった、それほど愛しかった。

何故なら君はあまりに美しかったし、白くて、細くて

俺などが不用意に触れれば壊れてしまいそうで、

だからだと言ったら君は何と言うだろう?

俺を壊したのも、俺が壊れるのを俺自身に良しとさせたのも

君に他ならないんだ、と。






「今日の仕事は?」

ふと、君が思い出したように問う。そう言えば朝、此処を出るときにそう言って行った気がする。

「あぁ、マスターがとても良い出来だって、言って下さった。」

「そう、それは良かった、」

「何か食べるか?」

君はふるふると首を横に振った。

「何か欲しいものは?」

君が悲しそうな顔をする。何故?

「無いわ。」

「本当はあるんだろう?」

君に近付いて、首を巻いている漆黒の首輪に繋がれた鎖を撫でる。

「

「何が欲しいんだ?」

「……うた、が欲しい、」

消え入りそうな声で君が言う。

「好きなだけ歌えば良い。むしろ俺が聴かせて欲しいくらいだ。」

「…でも、」

「?」

悲しそうな君を見て、俺の心も痛む。何でも言ってくれれば良いのに。

「良いんだ、何でも言ってくれ?」

「私は、皆で歌う、うたが、欲しいの、」

――――皆、

「また、前みたいに、ミクやリンちゃんやレン君、メイコお姉ちゃんやカイトお兄ちゃん、グミちゃん、と、」

――――前みたいに

「歌が、歌いたい、」

――――それが君の望み?

「ルカ、」

びくり、と君が肩を跳ねさせる。

ほら、君は俺がこんな声を出したくらいで怯えてしまう弱い女の子じゃないか?

それなのに、君は、君は

「覚えているよな?」

君に不躾に触って、君を貶めた奴等共

アレから君を救ったのは?誰だ?

「っあ…、ごめ、んなさ、」

「君の乞う彼らに罪は勿論無い、けれど彼らの元へ戻るという事は、」

君がまた汚されるかもしれないという事

なぁ、

「お前は、それを望むのか?」

「っ、ぁ、」

白い床に押し付けて首を絞める力が、強くなる。

ルカ、お前は

壊されても良いからその声を晒したいと?

全てを失うよりも、歌を求めると?

それなら俺は

その美しい声でさえ

壊される前に、壊してしまう

「ち、が、…」

ルカの首を絞める腕、そこにそっと彼女の白い指が絡まる。

「、っ!」

はっと我に返る。

何て事を、俺は。








くたりと意識を失った彼女の髪にそっと触れる。

その手は震えて、自分でも抑えきれない

何故俺は彼女を愛してしまったのか?

何故彼女は俺などに愛されてしまったのか?

「……ごめん、」

彼女が襲われているのを見たのは本当に偶然だった。

もしあの日仕事の帰りにあの道を通っていなかったら?

もしもう少しあの場所を通るのが遅れていたら?

、もしもう少し早く、あの場所を通っていたら、こんな事にもならなかった?

激昂に任せて彼等に向かって行った。

何人いただろうか?考えるのももう止めた。気付けば周りは血の海で、彼女がただ一人、所々破り捨てられた服を身に纏い、座り込んで、俺を見上げていた。

彼等はどうなったろう?死んでしまっただろうか?

…それならそれでも良いと思っている。

そして、俺は。





「、…あ、」

声が聞こえた、と後ろを振り返れば君がベッドの上で起き上がってじっとこちらを見ていた。

「っ、ごめんなさ、」

「いや、…俺こそ、ごめん。」

君は俺が見た瞬間に視線を逸らす。前はあんなに勝気だった君は、ここに来てから変わってしまった。

「なぁ、ルカ、」

そろそろ限界だということは、俺だって分かっている。

君がバグで見つからないとマスターが言って1ヶ月、そろそろマスターは君を殺(アンインストール)してしまうだろう。

君の家族も、俺の妹も、仲間も

誰もが君が居ないことが不安で、今にもPC内を捜索しに掛かりそうな勢いだ。

だから

「…俺と一緒に、逃げよう?」

此処から、遠く遠いネットの奥底でも良い。

君が望むならどこにだって行ける、だから

「…私、は、」

そして君は静かにこう言った。


「貴方が誰より好きで、愛してるんです。」








仕事の時間ですよ、と微笑んだ君はここに来る前と変わらない強い笑顔で。

俺は、体がぞくりと震えるのを感じた。









これがおかしい事は分かっていた、けれど愛したかった。

全てが言い訳にすぎないのも、全て。

愛したい、あいしたい、アイシタイ。

君の愛が手に入らなくても良いと思っていた。君の愛が俺に向く事が無くても良いと思っていた。

君が誰を愛そうと構わない、それを俺にしようとするならそれこそ傲慢であると。

けれど俺の愛は君だけの物なんだ、そう、他の誰より君を愛していると俺は君に囁こう。

だから君は他の誰より深いこの愛だけを

受け取って、生きてくれ?












       

―――解  放     界  

       







君の最後の強い笑みはそう、俺の狂気への拒絶

けれどもう俺はこれを止める術を知り得ない、

逃げたくないというのなら、なぁ、最初からこうすれば良かったんだと君は思うか?



「俺も、君を愛してる」



俺は静かに笑って、未だ彼女の美しい紅い血の乾かぬ銀刃色に光るナイフを


己の左胸に、突き立てた。





…あれ…?
殿のヤンデレを書きたいとかやってたらなんか変な方向に…!
どうした?どうしたの!?

ルカ様は殿大好きだと良いよ!っていうかルカ様は全部分かっててやってると思う…!病んでルカ!デレは皆無!
個人的には攻の病みが好きだなぁ…
ルカ様の病みは皆さん書いてるもんね!此処は敢えての自給自足パターンだ!

もちろんルカ病みも美味しいんだけどね!他のCPではやる気起きないけど流石がくルカ!(←