それでも最後彼女が笑ったのは




幸せだったからだと考えて良いのだろうか。








失くしたものは、大きすぎたのかもしれない


それとも、予想に反して小さかったのか。





涙という名の水滴は、彼女を失ったことを理解してもなお


この頬を濡らすことはなかった。





紅の海の中


もう笑うことの無い彼女はたゆたい続ける。


そしてそれを見つめて微笑むのは


三つ編の、男。


体中を己と妹の血で染めながらも


笑い続けるそれは


既に狂いきった機械人形のような






「愛してるよ、神楽」





機械人形が浮かぶ彼女に向かって慈しむ様に言う。


波に攫われた彼女の体は、俺にはもう届かない


彼女の体を掬い上げ、機械人形は己が掻き切った彼女の喉から流れる血を舐め

彼女に口付ける。


白い肌に、それこそよく映える紅の血は


血とも水ともいえぬ海に


落ちて沈む。







唯一この心を支配する感情が


全てを上回っていたのだとしたら



それは彼女を愛していたという証拠になりえるのだろうか。



       

―――声  の  消  え  た  兎  の  最  期  

       







愛してるとは言わない




口付けもしない




その代わりに



俺は俺の全てを君の最期に捧げよう






この憎しみの感情と、目の前の狂った人形の死と、共に。