桜が、今年も舞った。


何時になく美しいと


そう、思った。











それは春の幻







「なぁ、どうして桜がピンクかお前知ってっか?」


「なんで…って、理由とかあんのかヨ。」


「お前知らねぇの?仕様がねぇ、教えてやりまさァ。」


「仕様がないアル、教えられてやるヨ。」


「教わる奴の態度じゃねェだろィ。」


「教える奴は教わる奴がいねーと何もできねーんだヨ。教わる奴のほうが偉いネ。」


「…桜ってのはなァ、根元に死人を隠してんでさァ。」


「死人…?」


「桜は死人の血を吸って華にしてんだ。」


「…ワタシが入ったら、多分あのどれより綺麗ヨ!」


「あぁ?お前の血の色はドス黒いだろィ。」


「それはお前だロサド野郎。」


「絞め殺すぞ糞チャイナ。」







脳裏によぎる


瞼に焼き付いた笑顔と


いつか遠くの影と




嗚呼そういえば


お前の髪も桜の色だった、と


桜と重なる残像で気付く。






「ちゃんと赤いじゃねェか。」




お前は今この木の下で



何を考えてる?





       

―――  桜        

       











一等美しい桜は、それでもお前を隠し続ける。






赤く散りゆく華を切ろうと振るった光る刃は


それでも何も捕えきれずに





ただ、虚空を描いた。