愛しているからこそ



いっそ壊してしまうくらいに





抱き締めたい。











その瞳はただ、俺を見つめていた。


その瞳に宿る感情は違えど


今も昔も、変わらぬ美しい瞳


どれ程までに愛したことだろう


どれ程に手に入れたいと願ったことだろう


それは今目の前に


無防備に、立ち尽くす。









か弱い兎、白い兎


夜の兎は月の下


お前は震え、傘を構え


俺はこの身を血で濡らす。


本能より不確かな


けれど本能より強いこの感情を


俺に植え付けたのはお前だろう?


お前の様に欲望に逆らい続けるほど、俺は愚かではない。


血の海を望み、漆黒の闇を願い、その中心に立つことを欲する。


お前と、二人きりで。










紫煙を上げる傘の先は


小刻みに震え、焦点を合わせない。


憎しみのこもった弾丸は、俺の顔をかすめて飛ぶ。


最期までお前は俺を拒絶するのか?









「神…威、」


掠れた声


「大好き、ヨ?」


「俺もだよ」


「兄妹じゃなくて、ネ。」


「だから俺と一緒に行こう?」


それを聞いて笑った顔は、言葉とは裏腹に淋しく


……そして首を横に振り、







「だからもう、神威が人を殺すのを見たくないの」








       

―――零  下  の  笑  顔  

       





大きく爆ぜた最期の銃声




最期の笑顔は、永遠にその顔に刻まれる



白く細い腕から落ちるのは



煙たなびく紫色の傘









抱き締めた体は温かく





かれど笑みを湛える唇は





何より、冷たかった。