手折った薔薇の花は鋭い痛みを伴ってこの手に落ちた
ぷつりと現れた紅い珠を舐め取れば、同時にむせかえるほどの花の匂いがした。
薄々気付いていた事だった。君はそれを知らなかったかもしれないが、俺は知っていた。
君は彼の事を話す時とても幸せそうな顔をする。それだけで理解するには十分だった。
嘘を吐き続けるにはあまりに狭すぎるこの屋敷で君と彼は決してあってはならない関係になった。
それは禁忌。君も分かっていた筈の事。けれど君はそれさえ目を瞑って彼の下へ行った。
君の幸せは俺の幸せ、そんな事を言える位に出来た人間であれたら良かった。そうでない事に気付いた瞬間、自分に絶望した。
俺は最低な人間だ。
だから俺は彼女に彼と君の関係を密やかに伝えた。
それを知った彼女がどんな行動に出るであろうかを分かっておきながら。
それでもそれを俺は望んだ。
血を絶やすべくして、などと言う大義名分など俺は知らない。
あってはならない血筋をと、彼女は激昂した。しかしだからなんだと言おう?俺はただこの家の忠実な執事に過ぎない存在だ。
忠実、だからこそその積み上げてきたものを使って俺は自分の望みをかなえたにすぎない。それで良かった。
俺は最低な人間だ。
それで満足する自分に嫌悪した。
それで満足する自分に歓喜した。
おかしい事はとうの昔に承知している、それすらそれで構わなかった。
君の幸せを壊してしまいたかった、それが俺の幸せ。
恐らくはもういない君を探す
彼女に俺は殺せない。この家は終わるだろう、家を守ると言った彼女の手によって。
死んで尚美しい事に変わりは無い君を部屋に運び入れて見下ろす。
今は虚ろなその目で、俺を見ていて欲しかった。けれどそれは傲慢と言うものだろう。
白雪の間、この場所を全て埋め尽くしてしまおうと思った
この屋敷の夫人の愛でた、美しく咲き誇る黄色い薔薇で。
愛しい君の最期の表情には、
鮮やかな黄色とこの手から零れる紅がどんなに映える事だろうか
黄色い薔薇の花言葉はそう 「嫉妬」
夫人が知っていたのかどうか、最早知る術は、無い。