私の心が壊れていくことを、
全てが奪われていくことを
誰よりも私が、否定したかったのだろうけれど。
何時から、かなんて解らない
ただ何となく、漠然とした不安感からそれは始まった。
それに押し潰されそうになって初めて
それが何かを知ることができた。
FORTの技術者たちでさえ、見つけることの出来なかったそれは、
本来ならば有り得ない、
幾つものサイレントという名の怪物が自分の心を喰らっている事実。
外見からは全く分からない
それなのにも関わらず、技術者たちは口を揃えて私に言った。
「ナツキ、君はもう、戻れない。」
どういうことか、暫く頭の中に入ってこなかった。
私は能力者、きっと自分でどうにかできる。
きっとアツキが、私の心を削ってくれる。
ねぇ、戻れないってどういう事?
私の時間、心は、何処へ行っちゃうの?
私は、ナツキはまだこんなに元気で、考えられて、皆を好きでいれて。
それなのに私の心はサイレントに喰われているの?
「ナツキ、アツキに削ってもらうから」
ノーラは綺麗な髪を靡かせて、それでも少しやつれた顔で私にそう言う。
誰にも戻せないはずの私の心を、アツキはそれでも削ろうとしてくれるの?
「ノーラ、有難う。」
そう言うと、ノーラは優しく微笑む。
「アツキにも、有難う、って、言わなきゃ。」
「……ナツキ?」
私にそれが解らないとでも思ってたの。
”誰にも戻せない”のに、アツキをそんな危険な目にあわせられる?
「ノーラ、もういいよ。」
このままいれば、きっと皆にこの怪物を広めてしまう事も、解ってるから。
「ナツキは、これからきっと皆に一杯迷惑を掛けます。」
サイレントに感染した人間がどうなるか、私はだれよりも知っているから。
「でも、誰も何もしなくていいよ。」
そして、彼ならきっと私の心を喰らう事を、躊躇わないことを信じているから。
「ファルコで一番強い人、ノーラは知ってるよね」
「っ、まさか、ナツキ貴女―――「ナツキはね、」
「今まであの人、嫌いだったの。」
ノーラは身を乗り出して、私の肩を掴む。
「でもね、ナツキはあの人、嫌いだけど嫌いじゃなかった。」
アツキの事が、ナツキは一番好きだけど。
そう付け足して笑うと、ノーラはやっと肩の手を離してくれた。
「彼は今任務に当たっているわ。今FORTに戻れるような状況じゃないのは貴女も分かっているでしょう?」
「もちろん。だからナツキはあの人が帰ってくるまで待つつもり。」
「そんなこと―」
「たとえナツキの心が壊れても。」
「ナツキ!」
「……ノーラ、ノーラだけに言うね?」
「……?」
「ナツキは、一番好きなのも愛してるのもアツキだよ。」
「知ってるわ」
「でもね、ナツキは決めたの」
ノーラ、ナツキの言うことに怒らないで。
これは、きっと、
「どうせ心が死んじゃうんだったら、ナツキはリュウ・イーに殺されます。」
きっと一番最初に消えちゃうだろうから
きっと、一番最初に、心と一緒に壊れちゃうだろうから
「ナツキ、貴女、それは、」
「ノーラ、ナツキのこの言葉、忘れないで」
この思いを、私はどう表現したらいいのか分からないけれど
…どうして、失くしたくない思いほど消えてしまう事が解るの?
私は、この心の全てを、失いたくなんかないのに
「ナツキ、貴女のあの言葉の意味が解らないほど、私は子供じゃないわ」
「ねぇ、どうしてリュウなの?」
「貴女は彼の事が大嫌いだったじゃない」
「貴女は解ってないのかも知れないけれど、」
 
 
 
 
後書き(っていうかやっぱり言い訳)
Lost~と対になるお話がこれでした。
そもそもLost~の劉目線を書いてる時点で、「なんであんな本編で嫌いなのにここで劉を指名してくるか」ってのは勝手に萌補完しちゃいけないなぁと思ってはいたのですが。
そもそもこの題名文法合ってんのか怖いところですね。it for to~構文にしようとしたらto不定詞を持ってこれないという。
ナツキはアツキが大好きです。それはうちのサイトも基本同じ。お嫁さんになりたい、そのくらい好きだって、たぶんそうなんだと思う。
でも、自分の所為で危険に巻き込みたくない、きっとナツキはアツキに対してそう思うと思うんです。
それ自体、一種の愛なんだろうけど、やっぱりそれでじゃあ誰になら頼めるかって、この人が一番頼れて信頼できる人になってくるんじゃないでしょうか。
それで、この話はナツキがサイレントに(しかも複数)感染してしまうお話なんですが、そもそも本編で能力者は感染するのか否かってところが曖昧だったんで「じゃあやるか」というノリ。
しかもノーラが「複数のサイレントに感染するのはあり得ない」みたいなことを確か言ってたような気がするけど、だからこそ溜め込む人が突然変異造り出しちゃうんだよっていう感じ。
ナツキは頑張り屋さんで、だから誰も気づかないし、きっと本人も気づいてない、みたいな。
本当は「ほかのサイレントを取り込みつつ増殖していくオリジナルサイレントに感染した」とかいうシナリオを考えてはいたんですが、そこまで描写するには長くなりそうだったので。
最後の6行がLost~と完全リンクして終わりですね。オチが微妙になったかなとは思いましたが、敢えてこれでいきます。
そして最終説明としてはナツキは劉に自分がおかしくなっていく所を見られたくなかったっていうことを内心考えてたりとか(「だから、ナツキは~待つつもり」)
ノーラはずっと劉→ ←ナツに気付いてたとか(ノーラの出番多いし)
色々。そういうのって上手く文章に乗せられないのがやっぱり自分の力量ですね。
…そういえばLost~では途中とかが劉ノラに見えたりIt ~ではノラナツに見えたりするとかしないとか。
Lost~の一部とIt ~の途中は自分で書いてても百合に近いんじゃないかと思った。(「なんで貴方なの?~」とか。)
※ うちは劉ナツサイトです。(笑