変わらない光の人工太陽の中で
ただ、その小さな少女は立ち尽くしていた。
その瞳の先は、遠い遠い、此処ではない何処かの様だった。
「ナツキ、貴女こんなところで何をしているの?もうすぐアツキとのブリーフィングの時間よ。」
ナツキ、呼ばれた少女はゆっくりと目を瞬かせ、こちらへ体を向ける。
「えーっ、もうそんな時間?!まったく、神様はナツキに休息の時間さえ与えてはくれないのですね…」
そう言いながら空を仰ぐ少女からは、先程までの感傷に浸っていた雰囲気など感じられない。
「…でも、こんなに早くアツキとまた話せるのならナツキちゃんは幸せです…あぁ…愛しのアツキ…早く任務なんか放って帰ってきてくれればいいのに…」
「いい加減にしないと本当に時間よ。もし間に合わなかったら、今日の貴女のブリーフィングでのアツキとの会話の時間は無いと思って。」
「そんなぁ!!それならナツキはフルパワーで戻ります!」
ノーラは急がなくていいよ!そうしたらナツキはずぅーっとアツキと話していられるから!
少女はそう叫びながら、人工太陽の白に近い光の中を駆け抜けていく。
きっとその声は多くの技術者の耳に届いただろう。そして、すぐ後ろの医務室の中で未だに目を覚まさないあの男にも。
Σの能力が適正する人間には、多くの場合凄惨な過去が伴う。
かの少女もまた例外ではなく、彼女の持っていた”家族の絆”がどれほど強かったか、それだけで窺い知れた。
それ故、少女にとって身内の死がどれほどの影響をもたらす物なのか…それは想像するだに難くない。
少女の忌み嫌う、“心の壊れた能力者”達の死を感じ取ってすら、少女はその顔に恐怖を刻む。
そして、先日攻撃を受けて運びこまれた男は、目を覚ますことなく医務室で治療を受けている。
その時も少女は、その白い肌を一層青白くさせて、それでも気丈に笑って、
「大丈夫よ!アイツはゴキブリ並みの生命力だもの。」
それでも、励まそうと握った少女の手は、氷を握ったのかと思うくらいに冷たかった。
少女がよく口にする青年の名。
彼に少女が抱いているのは、それこそきっと慕情なのだろうと思う。
揺らぐことの無い心を持った青年
その心は、きっとこの先何があっても壊れるようなことは無いだろう。
けれど少女は知らない。
悪魔が時に天使の姿をとるように、
一番大切な感情もまた、時に愛とは異なる姿をとることを。
少女の立っていた場所へと立つ。
目の前には薄く、それでも強く張られたガラスの窓
そしてそこに映るのは、自分の唇をかみしめた表情と、
目を閉じたまま顔を歪める、目覚めぬ男の姿で、
 
 
 
 
後書き
今回はノーラ目線の劉ナツでした。本編とリンクしてるのかどうかは不明。こんなに暇人じゃないよなー、2人とも。
うーん、ナツキはアツキが大好きなんです。でも好きとか嫌いで表せない感情もきっとある、それが実は一番大切な感情だったりして。っていう。
劉ナツはいつもそんな所に着地して、変わり映えがないなぁ。でも、それでいいかなとも思います。
説明書でナツキ→アツキが「慕う」だったし、やっぱり周りからみるとそういう事なのかもしれない。
少なくともノーラはそう思ってる。でもだからってナツキが劉に傾いてるのが超心配。やめれって思ってる。
劉がナツキをどう思ってるのかはノーラはわかんないかな。嫌ってはないけど、それがどの感情なのかまでは察知できない。
まぁ劉の方が大人だからそんなものなのかもしれない。
…そしてガラスの外が地下なのにどうなっているんだ、ってところは考えちゃいけない(気付いてしまった)