もう、止めようナツキ。
君の狂っていく姿を見るのが、
もう俺には耐えられない。
死とは、誰にでも平等に、そしていつか必ずやってくるものだと思っていた。
それが嘘だとは思わない
けれど、それでもこの結果を生み出した何かを、俺は恨まずにはいられなかった.。
死の采配を決めるのは誰か
少なくとも、そいつに慈悲の心などがあるとは、到底思えない。
「ナツキ、誕生日おめでとう。」
差し出された大きなホールケーキに、ナツキ・ヴェネフスカヤは目を輝かせた。
「これ、アツキ買ってきてくれたの?!」
「あぁ」
「うわぁ…ナツキちゃんはもう今死んでもいい位に幸せです…ありがとう、アツキ大好き!!」
ナツキが俺に抱きつく。けれど、何か違和感は拭えない。
「ナツキももう15です!あと1年…あと1年だから、アツキ、他の女になんか絶っっ対に靡かないでね!」
あぁ、そうか、ナツキは俺では無く、服を掴んでいるのか。
「あと1年?」
ナツキは大きく首を縦に振る。
「だってアツキ、日本では女の人は16歳で結婚できるんでしょ!?あぁ…長かった日々もようやくあと1年で結ばれようとしている…」
ナツキはそう言うと、少し大人びた顔で微笑んだ。
「アツキの事、ナツキは今も昔も変わらず大好きだから!」
貼り付いたセリフ、その言葉を言うのにナツキ、君はどれほど努力したんだ?
「アツキノコト、ナツキハイマモムカシモカワラズダイスキダカラ」
ナツキは待っている?
俺がそれを肯定ないし否定することを。
「ナツキは、アツキだけがずっと大好き」
嘘
「だって、アツキだけはいっつもナツキに優しくて」
それを君は“彼”にも求めていた?
「ナツキを否定したり、ナツキに怖い声で怒ったりしなくて」
違う、君はそれさえ嬉しかった
「絶対、必ずナツキのところへ戻ってきてくれるもん」
…どうして君はそこまでするんだ?
「ナツキ、」
「?なあに?」
虚勢も、我慢も、いつまで君はそれを続けるつもりなんだ?
「解るよね」
俺が君のそれに気付かないとでも思っていたのか?
君の心の防壁は、あの時から無くなっているのに、君自身が気づいていない。
「もう、止めよう。」
「え……?」
君が抱きついても服を掴むのは、もう他人の温度を感じたくないから
あの日、一番最初に君は彼の冷たさを感じたのだから
君は周りに彼の事を忘れさせようとしている
誰より君が一番、忘れることなどできないのに。
「ナツキ、」
小さくて細いナツキの体を抱き締める
「アっ、アツキ!いきなり…っ!!」
「ナツキ、もう止めてくれ。」
ナツキの顔が強張る
「何の事をアツキは言っているのか…ナツキには、わからないよ…?」
「…こうして俺がナツキを抱き締めても、ナツキの心には俺の事は一切ない。」
ナツキの顔は、青ざめていた。
「ナツキ、君を死なせるわけにはいかないんだよ。」
あの日から、君の心の決意は幾度となく見てきた
「ナツキ、は…「忘れられないんだろ?」
冷静で論理的なスイーパー
それを誰よりも本当に愛していたのは、君だったのだから
「君は今日死ぬつもりだった」
1年以上前の事を
君はそれでも、彼を想っている。
「ナツキ、リュウは、リュウ・イーはもういない。でも君は、生きている」
「……年を取るたびに、解っていくんだよ?」
ナツキが俺をそっと押しのける
「あの人が、大嫌いだったはずなのに、なんでこんな気持ちになるんだろう、ってずっと思ってた」
声に乱れは無いのにも関わらず、ナツキの瞳からは水滴がとめどなく零れていく。
「いっそ、解んないままならよかったのに」
「ナツキは別に、あの人が死んだから今日死ぬって決めてたわけじゃないよ」
「もう、疲れたもん、大好きな人と大嫌いな人がいて、どっちの事も同じ位考えてるの。」
「アツキの事考えてると、すっごく楽しくてうれしい気持ちになるのに、あの人の事考えてるとすっごくもやもやした気分になる」
「でも、考えなくなれないんだから、ナツキちゃんは本当に大変。」
ナツキはそれでも澄んだ琥珀色の瞳で、俺を見つめる。
その心は、心の傷は、もう深過ぎて削れない
心を読む。
……ナツキの用意した問いに、俺は答えられはしなかった。
「ねぇ、アツキならどうする?…ナツキの事、私の事…止めない、よね……?」
 
 
 
 
後書き。
今回は劉←ナツ+アツみたいな感じでひとつ。
ナツキはこうやって本心を隠して生きてそう。あんなにテンション高くても。
「アツキの事が好き」って自分自身に思い込ませようとしてるナツキが書きたかったです。でも、みんなはそんな痛々しいナツキに、解ってても何も言えないと思う。
アツキなんかは、ノーラとかに「ナツキの心を読んで」とかって頼まれて見たらナツキは実はいついつ死ぬとかそういう負の感情的な物を持ってて、しかもバリアさえ貼り忘れてたり
劉がなんでナツキの目の前で死んだか、それは御想像にお任せします。ただ、盾話は別に書く予定ですが。
今まで温めてきた死ネタの構成がここに来て超大量に放出されている気が。
そしてタイトルがいつにも増して長い。
…特に意味は無いんだけど。