「ねぇ、劉毅、お昼はもう食べた?」
「何だ唐突に。悪いが今お前の下らない遊びに付き合っている暇は―――「はいっ、あーんっ❤」
そして彼女の反撃が、始まった。
某Nさんの証言――――
私は止めたのよ?…でもあの子は聞く耳すら持ってなかった。
”復讐よ”だなんて、あの子が彼に勝てるとでも?そんなのあの子が一番知ってるくせに。
……あ、でもね、彼が毎年コワれて確かにあの子に近づく男は減ったかもしれないけど、
あぁやったって彼に恋焦がれる女はあの子の言う通り減ってないのよ、LYNXでもね。
確かに顔は良いわ、大人な雰囲気だって所長とはまた違うものを持ってるし。
実際かなり腕も立つし、FORTだって彼に幾度助けられたか。
なんていうの、”俺様的”?な所もあるにはあるけど礼儀も言葉遣いもするべきところでは弁えてるし。
…あぁ、でも分かんないのよね、私は。
あの子を好いてる時点で色んな意味で彼、問題がある気がするんだけどそれは皆気にしないのよね?
まぁあの子の言い分、
”このままじゃ過労死しちゃうわ!”
それは尤もかもしれないわね。
某Aさんの証言―――
これまでアタシ等のPICUS内でも随分と問題にはなっていたのよ。
まったく、どちら共に世間受け良いっていうか好かれ易いっていうか、
まぁ人気あんのよねあのカップル。
此処何処だと思ってんだか、FORTよFORT。
一番恋愛沙汰には遠い職場っていうの?オフィスラブ有り得ないみたいな。
そこであんな大恋愛するんだからもう誰が間入れんのよ。
しかもなんでそのことに誰も気づかないのよ。
自分にはチャンスがあるなんて阿呆らしい希望持ってんなら仕事しろっつの。
っつうかそんな相手アタシが欲しいわむしろ。
…で、とうとうあの子キレたのね、当然か。
大体彼、顔は良いかもしれない…いや良いけど、
あの性格でよく彼女耐えられるものよね?
あの男の相手はあの子にしかできないってどうして分からないのかしら?
…あの子の健闘が墓穴を掘らないことを祈ってるわ。
某A氏の証言―――
あー…いやまぁ、当然かなって気もするけど俺には。
あの人が壊れて良いならあの子だってもっと壊れるべきじゃない?
まぁあの場に居た俺としてはちょっと吃驚したけどね。
だって公衆の面前であんなことするカップルって世間一般じゃ”バカップル”だろ?
しかも乗るってその対応は大人なのか子供なのか俺には良く分かんないし。
ただ、周りやっぱり凍ってたね。今度は本当に皆。
女の人って強くてさ、まだ全然あの人の事諦めてませんって人も多かったみたいだけど、
流石に今回の見たら打ちのめされたんじゃないか?
俺も見てて結構恥ずかしかった位だし。
見事にあの子の目論見は失敗したんだろうね。
あんな不意打ちが想像つくのはやっぱり俺が男だからなんだろうし。
それにあの狐につままれたようなきょとっとした顔はあの子がやっぱり無垢なんだなぁと思い知らされたっていうか。
というか、あの人を出し抜くっていう考え、俺は凄く好きだけどね。
…しかしまったく、あれが”大人の余裕”ならやっぱり俺はあの人を尊敬するよ、男として。
某L氏の証言―――
あぁ、やっぱり彼女はやったのか。
彼も性格が悪い、彼女の反撃を心待ちにしてたんだからね。
彼女はとても良い子だ、彼にやるにはあまりに勿体無いほどに。
でも彼女が彼の支えになってる事は間違いないし、今このFORT内で彼女の事を誰よりも愛しているのは彼に違いないから
それはそれで仕方の無いことだろう。
…成功したのか?したに決まっているじゃないか、あれを見れば分かるだろうに。
彼も彼女も結局”虫除け”だなどという大義名分を掲げているだけで結局はお互いの嫉妬のなれの果てだからね。
相手が他の人間に向くのが怖いだけだ。
だから先手を打った彼はまったく大人気が無いというものだよ。
その感情の名を知っているからこその先手とも言えたがね。
まったく可愛いものだ、二人とも。
例えるならそうだな――…
”悪魔と天使の騙し合い”とでも呼ぼうか。
「劉、」
「ふざけている時間があったら仕事をしろ。」
愛らしくフォークを手に、突き刺したエビを劉に向けていたナツキは頬を膨らませた。
「ふざけてないもん。やっぱりご飯は美味しく食べて欲しいなって思ったから、…それに一緒に食べたかったんだもん。」
唇を突き出してむくれ、下を向くナツキを見て劉はふ、と笑う。
そして彼女の顎を持ちあげ、
「!」
「真好吃,吃好了。做的菜真 合我的口味。」
「―――っ、」
ごくり、とナツキの口内から奪った彼女の唾液を飲んで、劉は笑い、固まるナツキを余所に立ち去る。。
ナツキの耳には、キスと同時に囁かれた
”これだけで終わると思うな?5倍にして返してやる”
という悪魔の低い囁きがただ、敗北の証のように谺していた。