幸せを、受けていいはずも無いと


分かって、いながら。





最後に聞いた君の声は

それでもこの状態を予想できるものには程遠く、

この現実を信じるための証拠にさえなり得なかった。



「また明日、会いましょうね」



自分がその言葉に、どう返したかさえこの脳には残っていない。

…本当に、返したのかどうかも。



耳から離れない啜り泣きの声

鼻につく辺りに漂う煙の匂い


脳裏によぎるのは君の別れ際の姿

結んだ黒い髪を、上下に揺すらせ

走ってゆく、君の後姿


あの時それを追っていれば

今ある現実は、変わっていたのだろうか。




君がいる事、それが自分の幸せだった。

そして、消える事の無い幸せなのだと、思い込んでいた。




青白い顔に触れようとして、手を止める。

この手で自分は何人の、どれだけの命を奪ってきただろう。

穢れの無い君に

触れる資格はあるのか?




ぐっと手を握り締める

他人の命を、これからあるはずの幸せを

全て奪ってきた自分に

君の幸せさえ奪ったというのに

幸せを感じる資格も幸せを想う資格も

あるはずが、無かったのに




甘んじて受けていた幸せの代償は

皮肉にも、その幸せの消滅。



       

―――幸    せ      

       




幸せなどもう望まない


幸せになろうとも思わない



だからどうか



俺の幸せとしてなくてでいい


俺を嫌悪し、もしくは君の記憶から俺を消してでもいい






どうか、また







その笑顔を、見せてくれ