長い髪に落ち着いた雰囲気


さてこの少女は解っているのだろう、か。








その曇天を朝の快晴から誰が予想出来ただろう。


今や空の全てを占拠するその雲は、運悪くも部活終了間際に現れた。


いつの間にか雲は雨を、それこそ容赦なく降らす。







…雨の守護者っつー位ならこれどうにか出来んじゃねーのと軽く悪態をついてみる。


鞄を掻き回し、せめて折り畳みの傘が無いかどうか――




それが有り得ないことは自分が一番よく知っているのだけれど。




余りの置き傘がないか、と微かな希望を込めて教室をのぞく。


ふと見ると、目に付いたのは特徴的な長い黒髪。


「黒川…?お前何でまだ居んだ?」


「日直。」


顔も上げずに即答。


彼女の机の上では、シャープペンシルが躍っている。


本人はそう思っていないだろうが、艶やかな髪と色白の肌を持つ彼女は、結構競争率が高い。


何の気なしにその姿を見つめる。


そして最後の一文を書き終えたのか、その手は日誌を静かに閉じた。


「何でそこに突っ立ってんの」


「!!えー…あ、傘無くてさぁ?置き傘余ってねーかなーって」


「無いよ。さっきアンタと同じ事考えた男子が取ってった。」


「マジで?」


思わず苦笑いをする。


野球部の練習は他部よりも長い。こういう時に限ってこういう弊害が来るから面倒臭い。







「くーろーかーわ」


帰り際の彼女に声をかける。


満面の笑顔、ただし下心付きで。


「何」


冷ややかな目。一瞬怯むがそれで引いては意味がない。


「いや、俺傘無えのなー?」


「…だから?」


「一緒に入れてく…「貸すから明日返して」


そういう問題じゃないんですよ、黒川さん。


差し出された傘を受け取らず、再びの笑顔で


「入れてくれるよなー?」


「嫌」


即答。


大きな溜息を吐いて、彼女の眼を直視。


「わかんねぇ?」


肩を引いて、こっちは屈んで、目線は一直線上。


「――?!っ―」









「…何すんのよ」


「平手は無いだろー?」


「ふざけんなガキ!アタシのファーストキスを返せ。」




「そろそろ俺も実力行使ってことで、な?」





       

―――鈍  い  少  女  は  何  想  う  ?

       





「本ッ当に最低よ、アンタ!」


「でも鈍いお前でも俺の気持ち、気付いたろ?」


「…もっと鈍いアンタに言われたくない!」


「!!ちょ、黒…」


投げられた傘は、さっき差し出された傘


それは彼女が持つはずの無い、男物で







「気付けよ、馬鹿ガキ!!」








廊下の果てから聞こえてくるその声が消える頃には




すでに彼女は雨の中走り去っていて、







窓を見ると、張り手を食らった時よりも赤い自分の顔が





ただ冷たいガラスに、映っていた。