掬い上げればそれはさらさらと
そして跡も残さず風に吹かれて
消えていった。
この部屋が白いのは何故だ、と
彼女が見遣っていたと同じに、天井を見上げ思う。
かの人がこの部屋を特に重んじたが故に
一面が滑らかで、少しの汚れもないその美しさは特殊なれど
そこに漂う雰囲気、それはどこでも大差無い。
消毒液の匂い、そしてそれに混じる少しの血液の匂い
思い起こされる記憶
純白の部屋には殊更に
そして残酷なまでに紅が映えた。
誰の所為で、と問えば
それは無論誰の所為でも無く、それが彼女の運命だったのだろうと
恐らくそれ以外の真実は無いだろう。
けれどこの結果を生み出したのは、と問われれば
己以外の何でもない、と
それが紛れもない事実
せめてこんな逝き方だけはさせたくなかった
最期の表情が、頭から消えてはくれない。
満足とはきっと程遠い
それでも彼女は俺を責めはしなかった。
気付いたころには、もう遅すぎた。
治る見込みのない病
どうして彼女の異変に気付けなかったのだろうか
衰弱しきった君の笑顔は
あの頃とは似ても似つかぬ
とった手は白くて細く
そしてまるで氷の様な
青く白くなっていく顔に不治を理解し悟り
口から紅を零した時に死期を知り
そして力無く、それでいて懸命に笑ったまま止まった時を見て死を悟った。