恋をしたことは、たくさんあった。
誰かを好きになることなら。
あの茶色の髪の毛の優しい男の子、それ以外にも。
でも、違う気がした。
それが10年前のことだった。
懐かしいと思うより前に、あの時は幸せだったのだと羨む。
だれかをすきになって、それでなやんで、それでもわらって
自分にもそんな時代があったのだ。
今となっては、それを幼いと笑い、
…戻れたら、と願う。
いつ、私は足を踏み外したのだろうか。
どうして、私は此処へ落ちてきたのだろうか。
何故、私はあの頃の自分のように純粋でいられない?
生きる道の分岐点がどこにあったのかさえ、もう私には解らず
そしてもう一度そのチャンスをくれるほど、神は甘くはないだろう。
この気持ちが何なのかを知ったその時も
まだ私は幼い顔で笑えていたのだろうか。
君と出会わなければよかったのに
そこが分岐点だったのかもしれない。
そこで別の道があったのだとしたら
今の私は迷わず君とすれ違うことを願うだろう。
今の私なら
あんなに好きだった茶色の髪の少年さえ
あんなに可愛いと思っていたスーツ姿の赤ん坊でさえ
瞳を閉じて、その存在を押し出すだろう。
彼らと出会わなければきっと
君と出会うこともなかったのだから。
大きな部屋
いるのは私独りきり
一昨日まで居た筈の君の姿は今
指輪だけになってここに居て、