暴力的に、体を傷つけたくなった。
残酷に、言葉で心を傷つけたくなった。
残虐な自分に、歓喜した。
彼女を可愛いと思ったことなんてなかった。
何時でも忙しそうに動き回って、弱いくせに一番最初に突撃して、そして何時でも俺を睨む彼女
いつかまではそんなこと無かった。
幼い頃はは年が近いこともあってか、ごくごく偶にだが、共に遊んだこともあったと思う。
そんな時彼女は決まって笑っていたし、俺もそれが嬉しかったのだと記憶している。
彼女はある時を境に本家から出ることはなくなった。
「若」の世話係に任命されたとか、そう言えば最後会った時に言っていた気がする。
―――…だからもう、ここには来れないかもしれないわ
寂しそうに話す彼女に、俺は確か言ったのだ
―――俺等が、行けばいい。
単純な俺は本当にそう思っていたのだ。彼女がここへともう来れないのなら、俺達が彼女に会いに行ってやればいい。
それで彼女の心が晴れるのなら。
俺達だって奴良組であることには相違ない。本家へ行くことに何のためらいがあろうか、と。
彼女は言葉通り、それからもう此処へは来なくなった。
…否、来られなくなってしまったのだ、と俺はあの時馬鹿正直にも思っていたらしい。
「若」の世話係として忙しい彼女、「若」が居なければ彼女は此処へ来てくれるだろう。
そう思うと、何となく「若」が恨めしかったような気もする。
俺等は俺等で、本家に行くことは叶わなかった。
牛鬼様が本家に行く時は常に留守番を命ぜられたのだ。
俺等はそれを残念と思いこそすれ、何故、とは思わなかった。
牛鬼様の言う事が俺等の全てである、それは幼い頃から不変だった。
もしかすれば、相棒は思っていたのかもしれない、気付いていたのかもしれない、「何故」
けれど俺は思わなかった。
それが間違っていたとは、今も思わない。
何時しか彼女への思いも、真実を言えば彼女の存在さえ、俺の中からは薄れていっていた。
だからあの時も気づかなかったのかもしれない
捩眼山にやってきた彼女を、人間のように振舞っていたからと言っても。
…違う、嗚呼、俺は否定してばかりだ。
彼女はあまりに変わっていた、そう思う。
少なくとも幼い時に見た彼女は、あんな顔をする女じゃなかった。
呆けたような、甘い笑顔だった。
信じられないくらいに違う、甘ったるい笑い方だった。
少なくとも、彼女は俺の知る”雪女”じゃ、無かった。
俺の刀の刃が、彼女の足に突き刺さった時
俺の中で何かが弾け飛んだ気がした。
例えば体中の血が沸騰するような
例えば敵を全て切り殺した時のような
達成感と、高揚。
彼女の表情は、驚きと苦痛に歪んで
けれどその顔は、あの頃となんら変わらなく、綺麗だった。
あの時の感覚が未だに消えない。
彼女を刺した感覚が
彼女を傷つけた時の感触が
もう一度、と俺を急かす。
彼女が「若」と居るほど、
彼女が「若」と呼ぶほど、尚。