うざい女だと思っていた ずっと、幾代前から。 いつまでも大将にべったりな側近 妖怪が人間に恋をする、など 別にありえないことでは無いとは知っていたが もしかしてアイツもそうではないかと気付いたのは ―――しかも自分の大将に――― 笑えるくらいに今更で、 笑えないくらいに遅かった。 まぁ人間という訳でもない、か。 四分の一だけ妖怪となれる大将 それのどこが良いのか、俺には分からない。 人の良さそうな体で 何を考えているのか解ったもんじゃない、そんな奴の。 忙しそうに膳を持ち、廊下を走る白い着物を見る。 役立たずの側近、そう詰ったのはいつの事か。 悔いるわけではないが、その言葉を少しは取り消そうか、とも思う。 今でも顔を合わせれば睨みつけてくるその瞳に 慣れたのか、心地良いとさえ思うのは 俺が狂った証拠なのか 木の上は、木枯らしが吹き荒ぶ。 ひらひらと舞う白い着物の主が 大将に会い、顔を綻ばせるのが見える。 冷たい瞳とは似ても似つかぬ それが恋ということか? 俺に見せることはないその瞳が。
それでもその氷の瞳が、俺だけの物なのだとしたら 俺は嗤う。 たとえそれがアイツの思う所とは違っても なぁ、俺だって誰かを愛してもいいだろう? ひらひらと舞う着物の姿は 雪のように、いつの間にか消えていた。