冷静沈着、頭脳明晰、才色兼備
自然と、笑いが零れた。
ものすごく、単純な自分がいた
悲しみと滑稽さを背負うこの仮面に、自分は誇りを持って自分自身だと言いきれたはずだった。
皆を愛し、皆に愛され
皆を嫌悪し、皆に嫌悪される
にたりと笑う仮面は自分でも滑稽だと思ったし、
それをつけるのに相応しいのは自分しかないのだとも思っている。
思って、いた、のだ。
まったくもって、面倒な人間と組むことになってしまったものだと思う。
事あるごとに向けられる彼女の視線は、サングラスこそ掛けられているもののとても冷たい。
わからないほど愚かではないつもりだ。少なくとも、それにいちいち反応するほど、道化師も暇ではないというだけであって。
気づいているのかは知らないが、サングラスは斜光角度で全く隠す意味をなくす。
…きっと、彼女はそれさえも意識以前の問題で、俺にならばそれも許されるとでも思っているのだろう。
まさか、俺にならそれがわからないと思っているのなら彼女の能力も知れたものだ、残念ながら。
あぁ、ほら今だって、プレイヤーの作戦に困惑する道化の笑い顔を、彼女の瞳は呆れながら見つめているわけで。
大概、舐め切られているのは分かっている。
俺がディーラー補助なら、とっくに組み替えを上部に申し出ているところだ。
ディーラーの素質とは何か、以前他のディーラーに問われたことがある。
そのころ補助であった俺は、迷うことなく
”何時如何なる時でも中立立場を貫き通す事の出来る精神”
”プレイヤーの心理状況を瞬時に見抜くことの出来る心理学的知識”
”プレイヤーの作戦を誰よりも早くに察知する事の出来る観察眼”
”これら全てを、常人以上に持ち得ること”
俺の考えつく、最良の答えだったと今でも思っている。
しかし、今の俺ならその回答に迷わずバツをつけるのもまた確かで
そう、その俺の誰より尊敬するディーラーは、俺の最高の答えを聞くなり「フフフ」となにやら不敵な笑いをちらつかせ
「それなら君も、まだ暫くは補佐生活かもしれませんねぇ。」
君はあの頃の俺にそっくりだ。
真面目で冷静で、沈着で、そして自分で言うのもあれだが頭が切れる。
けれど、それではディーラーになれないことを君はきっとまだ暫くは分からない。
俺の道化顔を嘲笑ううちはまだまだだ。
…なぁ、そのサングラスとマスクの下の君のその表情にはきっと
道化の仮面が、よく似合うことだろう?