「馬鹿は、アタシだったのかもね。」

にこり、作られた笑みが碧に歪んで、その綺麗な瞳と同じく光って

そして、

人の冷たさを感じた。







もう二度と、道を交えることは無いのだと分かっていた。

あの日交差した道で彼女とすれ違ったあの時から

もう来た道を戻ることすら無いと、知っていた。

それでも遠くに彼女の笑みが見える度に、もしかしたら

もしかしたら、馬鹿な自分は、このまま馬鹿を演じていれば何時か、

何も知らないふりをして、何もわかっちゃいないふりをして

もう一度彼女に少しでも近づけるのではないかと頭のどこかで思っていたに違いないのだ。







蛇に愛されたその少女は、恐らく自分の事などほとんど気にも留めた事など無かったに違いない。

純血でありながら獅子に愛された裏切り者の一族の、馬鹿な男だというレッテルにまみれた自分に

冷笑こそ浴びせれ、されど振り向く筈など無く。

けれどそれで良かったのだと今なら思える

彼女に、自分が彼女を見つめていたことを知られる事はそれでとうにある筈がなかったのだから。

そしてそれが誰にも分かられぬままにあることで

自分はその時だけ、ただ自分だけが彼女を見つめているというその時だけは

彼女と自分の間にある崖とも壁ともつかない隔たりがないものと錯覚できたのだから。







「馬鹿じゃないの」

腹が立つほど傲慢で嫌味な彼女は最後まで口が悪かった

「連れてってなんて、アタシは言わない」

「それがアンタとアタシの覚悟の差」

「アタシはこの道を、生きていく。」

その言葉を聞いて如何に自分が絶望したか、きっと彼女は知らない。

けれど自分もまた、彼女の言葉の真意なんてこれっぽっちも分かっちゃいなかった。

欲しいものが手に入らなかった時の感情なんて

すっかり忘れていたことに気付くのに精一杯過ぎて、







「覚悟が無かったのはアタシの方」

「アンタと逃げることさえ、それが幸せだろうと分かってながらそうできやしない弱虫なアタシ」

弱弱しく笑った彼女は杖を静かに放った。

「最後のアタシの我儘、聞いてよ。」




彼女の耳元に、緑色の光に当てられてきらりと光った小さな赤いピアスが見えたのは

――――――それはかつて名も伝えずに自分が彼女に贈った唯一の、愛の形




愚かな自分が

全てに気付いた後、







       

―――  E  D  に     み  れ  た

       







「君は、卑怯だ」

そう言えば何もかも赦される気がした

けれど何処までも愚かな自分を一人憐れんでくれる君は

もう、いない。







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久しぶりのロンパンでした。EDは過去形のED。
攻からするとドラハーは残していく辛さがあって、ロンパンは残される辛さがあるんじゃないかなと思います。
勿論逆もあるけれど。