略奪者、どうかお願い


私の心を、返して。








吹き荒ぶ風に、身をすくめる。
散歩するには適しているはずも無い、雪で埋もれた外庭。




「散歩、してくるわ」




そう言って出てきたのが10分前。
親友はチェスをしていて、それまで読書をしていた私の唐突な発言に目を丸くした


「本気かよ、ハーマイオニー。外は雪だぜ!」


信じられない、とでも言うように叫んだ親友は、それでも私を止めようとはしなかった。



ふるり



反射的に、身体が震える。
暖炉の火がゆったりと燃えていた談話室、
その暖かさがいっそうこの外の寒さを助長している。




貴方は、今頃この寒さの中で

どこでなにをしているの?




今はもう見えないプラチナブロンド。
闇に溶け込んだその姿は、
もう私がいくら手を伸ばそうと
届きはしない。




「滑稽よね」




憎んでいたはずだった。



けれど。




盗まれたこの心

抜け殻となったこの体



私の瞳はもう、
あなたの面影しか映そうとはしないのに




       

―――略  奪  者  

       






私の前から消えるのなら
どんな犠牲を払ってもいい
私の心を返して?




私が狂っていく前に




              貴方の瞳が、髪が、肌が、言葉が







奪っていった、この心を。