「…殺されるために生きるとしたら、」
彼女はそこで息をついて、しっかりとその瞳でこちらを見据えた。
「それは生きる意味と言えるのかしら?」
そして彼女は今までに見たことも無いような美しい笑みを浮かべた。
全てを悟っても、彼女は怒ることも嘆くことも無かった。
それは彼女という人間を良く表わしていて
誰よりも賢く、聡明な彼女だからこそ
もうこの状況がどうにもならないこと位分かっていたのだと思う。
…それでも彼女ほどの魔女が微かな希望を捨てて最後足掻くことさえしなかったのは
彼女なりの諦めか、それともその言葉が早急に現実の物となることを望んでいたからだろうか。
「殺されるために、生きる」
それが果たして誰に向けての言葉だったのか、本当に目の前に居た己への言葉だったのか、己に知る術は無い。
彼女は例えば愛する者に殺されることで、その愛を示そうとしたのか
例えば愛する者に殺されることで、その身に幸福を抱きつつ死にゆくことを良しとしたのか
それならば彼女の最後のその望みを叶えるべきだったのだろう
それが英雄と呼ばれる緑色の瞳の青年であっても、常に彼女の傍に居た赤毛の青年であっても
彼女を愛していると言うのなら、彼女の最後の望みを、叶えてやるべきだったのだ
彼女を愛し、彼女に愛される者だというのなら。
それは嫉妬か、羨望か。
どちらにせよ、嗚呼、何と醜い感情だろうか
負の感情、それらに身を任せた己もまた同じように、いやそれ以上に醜い。
それでも
それでもそれらを止める事をしなかったのは、
動かなくなった彼女を見て
”殺して?”
”私は、あなたに殺されたい”
”ねぇ、出来るでしょう?”
ただただ
願わくば自分が手に掛けた彼等に殺されてしまいたい、と
そう思った。