白く光る十字架、石は孤独に一人聳え立つ。
ここに眠る君の顔は、
私の頭に刻まれた君のその顔は、
10年前よりも大分おぼろげになったけれど。
ある人は10年という月日は長いと言い、ある人は短いという。
私の、10年は、
空は曇っていた。
青天の霹靂、もう青空は見えない。
それでも足元の十字架は真っ白に光っていて
アンタがどこまでも、そんな色をした人間だったのだと思い知らされた。
勝ったくせに、そのヨロコビもつかの間。
元々馬鹿だとは思っていたけど、本当に馬鹿みたいにあっけなく逝ってしまったアンタは。
子供を残したまま、こんな所で悠々と眠るアンタは。
学生時代と何も変わらない、なんて、どこまでも自分勝手でエゴイストな人間。
覚えている?
アンタが一度だけ、アタシを助けてくれた事
階段から落ちそうになったアタシを、抱きとめてくれた事
あの時アタシに何も言わなかったアンタの顔
アタシ以上に、赤かったんじゃない?
「奥様」
呼ばれてふと振り向くと、しもべ妖精がそこに居た。
ドビーはおどおどとした態度を崩さないままもう一度私に向かって「奥様」と言うと、いかにも申し訳なさそうな態で
「ここに居ては、旦那様に叱られます・・・!」
「・・・アンタ、ついてきたの?」
「旦那様はドビーめに奥様から目を離すな、と仰せになりました・・・!」
大きな瞳から今にも水滴が零れ落ちそうだ。
「その”旦那様”は今どこに居るのよ?」
「それは言ってはいけません、いけないのです、奥様・・・!」
「―――本当はアンタは”旦那様”についていきたかったんでしょう?行きなさいよ。私はただの嫁に入った女なんだから」
「旦那様のご命令は絶対なのです、奥様。」
「ドビー」
呼ぶと彼はびくりと体を震わせる。アタシはどうしてこんなにもしもべ妖精なんかに優しくなってしまったのだろう?
「アンタは旦那様・・・ドラコの方へ行きなさい。あの人が今どこかなんて、アタシには手に取るように分かる。」
「奥様、」
「本当はアンタだって分かってるんでしょう?あの人がどこへ行ったかなんて」
「奥様、それ以上言わないで下さいませ・・・!」
「あの人はアタシを愛してなんかいない。未だにあの子の事をずるずると好きなまま。アンタに一番優しかった、アタシなんかよりずっと性格良いあの子。」
「奥様、あぁ、止めて下さい・・・!」
「あの子が眠るのはどこだった?アンタなら分からないはずが無い。」
「奥さ・・・」
「この場所ではアタシをそう呼ばないで。アタシは奥様なんかじゃない、」
だってアタシは、結局幸せで、不幸。
「アタシはただの、ずっと赤毛の馬鹿が好きな、愚かな女なのよ」
「・・・パンジー、様、帰りましょう、旦那様がお待ちでございます・・・。」
困るドビーに、帰るわ、と一言告げる。それだけで彼はほっと安堵したように胸を撫で下ろして、「えぇ、えぇ」と答えた
あぁ、馬鹿みたい。でも、誰にもいえなかった事
・・・こんな事を彼に問うたら
また彼は困惑し、悪くも無いのに自分を非難し、自分を自分で傷つけるのだろうか?
「ねぇ、どうして私は、”ハーマイオニー・グレンジャー”として、生まれてこなかったのかしら?」
その問いに、ドビーは目を見開いて、それでも笑って
「ロン様はハーマイオニー様よりもパンジー様を愛せられていた事を、ドビーめは存じております・・・!」
予期せぬ答えに、アタシは、
柄にも無く、声を上げずに、泣いた。
あの人もまた、きっと私と同じ。あの子はアイツを追うように、子供を遺して逝ってしまった。
それがあの人にとって、どんな事だったかなんて解り切ってる。
今日は、アイツとあの子の命日。
朝家を出る時に玄関にあったあの人の靴は、私の靴は
今まで履いた事の無い、一番の特注の靴だった。