私はうそつきです神様
だけどどうかそれを赦して
でないと私は、私をこの家の子として生まれさせたことにすら
貴方を恨んで、しまいそうだから。
赤絨毯の敷かれた廊下を、本を抱えて歩いていた。
すれ違う生徒のネクタイがちらりと見えて、あぁ、グリフィンドール生だ、などとぼうっと考える。
――最近アルがよく、スリザリンの子とつるんでるらしいよ
――あー、アイツだろ、スコーピウス・マルフォイ。
――意外だよねぇ、ってか驚き。
――世界の英雄の息子な割に、アイツ抜けてるからなぁ。
「ちょっと、貴方達!」
思わず声を掛けてしまったのは、丁度そのことを悩んでいたからで。
その二人は驚いたように私を見て、目をしばたかせた。
「あの、えっと…今の話、本当?」
勢いよく声を掛けてしまったが、二人の怪訝そうな顔にふと我に返り小さな声で問い掛ける。
「君、ローズだろ?ローズ・ウィーズリー。君こそアルと一番仲良いんだから、知っていると思ったよ。」
「そうそう。君が聞いてないとなるとびっくりだね。」
恐らく上級生であろう背の高い二人に言われ、私は苦笑いしてお礼を言い、早々に立ち去った。
…確かに、最近アルがよくどこかに行っている。
どこに行くの?と聞いても笑って「トイレかなぁ?」とか言ってはぐらかされてばかりだ。
別にアルだけが友達なわけではないから、問題はないのだけれど、昔からの家族ぐるみの付き合いで幼馴染なアルが
自分から離れていってしまうようで寂しい。
「よりによってスリザリンなんて!」
別にスリザリンに恨みがあるわけでは決してないが、親の…特に父親の偏見とまで言えるスリザリン嫌いを小さい頃から聞いていたせいか、やはり良い印象はない。
「…しかも、マルフォイだなんて…」
プラチナブロンドの髪にすっきりした鼻、アイスブルーの瞳、雪のように白い肌。
常に仏頂面であることを除けば確実に美形、しかもそこらの美形とは格が違うほどの。
純血一家に生まれ、かつての様な栄光はなくとも十分すぎる財産家のマルフォイ家の御曹司。
箒に乗るのが上手い上に勉強は…常に私と一番争いをしている。
「仲良くしちゃ駄目って言われたのに!」
本当は言われたのは自分だけだから、そこにアルを引き合いに出すのはお門違いだと分かってはいるけれど。
なんだかとても、納得がいかなかった。
「ローズ、ちょっと出かけてくるね!」
「いってらっしゃい、アル。」
にこにこと満面の笑みで、鼻歌まで歌いながら出ていくアルを、そっと追いかける。
一度扉が閉まったのを確認して、足音が遠ざかってから、もう一度扉を開けた。
「ああら、たとえ好きな子でもストーカーはダメよお嬢さん」
「違うわ!アルは大切な友達よ!」
”太った貴婦人”に余計な忠告をされてうんざりしつつ、私はアルを追いかける。
しかし途中の角を曲がった所で、アルの姿は消えてしまった。
「…透明マントね!まったくもう!」
けれど慌てることはない。こうなると予想してアルの靴にある魔法を掛けておいた。
…うっすらと、赤い絨毯の上に靴の足跡が残っている。
それは間違いなくアルのものだった。
「えっと…ここで…お終い?」
着いた先は図書館だった。意外に思いながらそっと入る。…と、奥のテーブルに二人の男子生徒が座っているのが見えた。
一人は赤と黄色のネクタイ、もう一人は緑と銀色のネクタイ。
「…あ、来た来た。ローズ、来なよ。待ってたんだよ?」
「あ、アル、なんで、」
「もう、僕がローズの魔法に気付かないわけないでしょー。あと気配ねー。兄貴にしてやられたイタズラからするとローズは良い子だからまだまだ甘いって感じだよ。」
マルフォイはちらりとこちらを見ると、荷物をまとめ出した。
「僕は席を外そう。」
「なんでだよスコーピー!僕はむしろ君達二人を会わせたくてこんな小細工までしたって言うのに!」
「君が変わってるだけだろアル。普通グリフィンドールはスリザリンとつるまない。」
「なら言っとくけど普通スリザリンの奴がスリザリンの奴をまだ教わってもいない魔法で撃退したりしないぞ!」
「あれはウザかっただけだ」
「そーいう所がかっけぇのまったくこのイケメン!」
「とにかく、…君は入りなよ。そこに立っているのも疲れるだろう?…僕は帰る」
「…ちょっとまって、」
なかなかついていけない展開に混乱しつつ私は訊く。
「いつもここに居たのアル?」
「うん。スコーピウスの奴がここ大好きな変人だから合わせた。」
「なんで言ってくれなかったの」
「だってローズスリザリン嫌いでしょ」
それで僕まで嫌われたくなかったもん、アルはさらっと言った。
「…マルフォイは、いつも図書室に居るの?」
「え?…あぁ、ここが一番はかどる気がして。それに本の匂いに囲まれてるのは好きだ。…君が居るのはあまり見ないけど」
「私は、…部屋の方が、はかどる気がして、」
「でも本は沢山借りていく。勉強家だって感心させられるよ。」
「え、あ…有難う、でもそれなら貴方もよ、マルフォイ。」
顔を上げるとそのアイスブルーの瞳と目があって、その瞬間彼が微笑んだ。初めて見る彼の笑顔はとても穏やかだった。
「スコーピーは色男だねぇ。あんまり見つめてるとローズがタコになっちゃうよ。」
「アル!」
気付いた時にはマルフォイの顔はいつも通り仏頂面で、彼はそれじゃあ、と言って図書室を出ていってしまった。
「…嘘じゃないだろー?」
「何が」
「本当にタコになるかってくらい赤かったんだからなーあ、それとも真っ赤なバラって言った方が良かった?」
「アル!大体マルフォイと仲良くするなんて!」」
アルの頬を抓りながら、聞かれないように少しだけ呟いた
「…ずるい…のよ…」
アルはニタニタと笑っていた。抓む手を両方にした。
本当は彼に会うと話しかけてしまいそうだったから図書室へは行かないの、だなんて
アルに言えるわけ、無かった。
「僕さあ、スコーピーとローズって気が合うと思うんだよね」
「…」
「アイツすっごい良い奴だし」
「…」
「ロンおじさんには黙ってようよ、そしたら分かんないって」
「…本当に、?」
「わっかんないわっかんない。っていうか、それなら僕も同罪って奴?」
「…明日、」
「うん?」
「一緒に図書室行って良い…?」
「勿論!」
この決断がもの凄いことを引き起こすのは
またもっと、先の話なのだけれど
今の私がそんなこと、知る訳も無かったり、する。