それを教えてくれたのは、君。





ねっとりと、舐めるような生暖かい風。

空を見上げれば、今にも雨が降りそうな曇天で

けれど、なかなか降ってはこなかった。




それはまるで君のような

君がはらりと涙を落とすのは、何時だって独りきりの時で

この曇天のごとく

泣きそうな顔で、それでも必死に耐え抜いて

そうして独りきりになった後。




この空ももうすぐ泣き出す

闇に隠されて、独りになったと思い込んで



君もそうしてくれれば良かったんだ
君が望めば、僕は幾らでも君を隠す闇になったというのに
君が望めば、僕は君だけの闇になった。



この身に背負うものも、この身に定められた運命も

全て捨てて。





言い訳じみてる




そうだ。
それは自分自身が誰よりも、何よりも分かっている。

現に、君はもうこの世の何処を探しても
この足が折れるまで君を求めて歩いても
この声が嗄れるまで君の名を呼んでも
この腕が壊れるまで君を呼ぼうと杖を振るっても



もう君が僕を睨む事も
もう君のあの笑顔を見る事も

もう君が僕から隠れて泣く事も、無い





夕闇が、静かにホグワーツの空を覆う

水滴が、目の前の石床を濡らしていく


全てが雨に濡れていく

髪の先から零れる水滴

雨の冷たさが心地よく身体に広がる



―――愛してるよ、ハーマイオニー。



迷いも無く、英雄の盾となって死んでいった君が

僕は何度も言ったのに

君はそれでも先に逝ってしまったんだね


杖を握り返す

冷たい。

けれど最後に触った君の骸は

もっと冷たかった。




このまま雨に飲み込まれれば

もう一度君に会えるか?


否

いっそ君がその手で

僕を殺してくれよ。





止められない、止まらない笑い


震える手、開いた瞳孔



       

―――人  間  の  狂  い  方

       






それを教えてくれたのは、君なのだから。