水中に落ちたインクは、それは綺麗な波紋を作り




そしてやがて濁って消えていく。









君が消えて、どのくらい経っただろう。


誰も君の事を口にしないのは


きっと人間の本能なのだから、許してやってくれよ。


少なくとも僕は


君の事を聞かれれば、なんだって答えてやる。








「闇に消された」とは


何と的確な言葉だろう。


あの夜消えたまま戻ってこない君は


今一体何処に居る?


……その質問を君は愚問だと嗤うかもしれないけれど。


それでも僕はそれを信じたくはないんだ。








なぁ、早く戻ってきてくれよ


君のその黒髪も、碧眼も


譲歩すればその笑い方だって


僕は誰より愛している、と言い切れるというのに


君は勝手に僕の中に白インクをこぼしては搔き雑ぜて


全て誤魔化そうとするんだね?







「あいつは闇に消されたんじゃない、自分から消えたんだ。解れよ、ロン」







解る?


まるで彼女が闇に行ったこと


それが真実以外の何物でもないというような言い方をするんだね、親友。


誰にも言いきれないはずだろう?


だから僕は信じるのだから。






       

―――頭  の  中  に  白  イ  ン  ク

       




嗚呼、いっその事君の白インクに誤魔化されてしまえば良かったのかもしれない。




君の白インクは君が闇へ消えたことを、僕の頭に記し続ける。



君なら解ってくれるかい?



僕のこの苦しさを。










白インクに誤魔化されるくらいの愛だったなら






こんな思いになることもなかった










……その事、を。