シンデレラ、シンデレラ
もう君は僕に
ガラスの靴さえ、残していってはくれないんだね。
魔法使いは魔法をかけ、その少女の全てを変えた。
それは決して、カボチャを馬車に変える物でも
ハツカネズミを純白の馬に変える物でもなかったけれど
それでも”魔法使いになる”という魔法をかけられたその少女は
舞踏会で誰の目にも美しい、と映ったシンデレラのように
誰が見ても素晴らしい、と思う魔女になった。
きっと彼女の力はかけられた魔法の物ではなく、本当に彼女の力なのだと思う。
シンデレラ自身が、本当に美しい女性だったのと同じく。
だから、魔法使いが与えたのはチャンスでしかなかったのだ。
少女にしろ、シンデレラにしろ
望むものを叶えられるだけの力を持っていたにもかかわらず
恵まれなかった、それだけの事を
魔法使いは、変えただけにすぎない。
皆、誰もが忘れていた。
自分たちが魔法使いでありながら、一番知っているはずの事を。
きっと、それは少女自身も同じで
気がついたのは12時の鐘が鳴ってから
美しく荘厳で、そして非情な鐘が時間切れを知らせてから
「魔法はいつか解ける」
その事を。
12時の鐘が鳴り終わるまでに、シンデレラは階段を駆け降りる。
靴を片方置いてきたことさえ気にも留めず。
解けていく魔法の中、彼女は何を思って走ったのだろうか
鳴り終わった鐘の名残を
彼女は何を思って聴いたのだろうか
12時の鐘、向けられた杖
魔法が解けてゆくことを悟った少女は
シンデレラのように階段を駆け降りる事をしない。
もしかしたら気付いていたのだろうか
12時が近いことも
これが全て魔法なのだ、ということも。
「お前はマグルなんだ」
だからどうか逃げてくれ
12時の鐘、たとえそれが鳴り終わっても
靴を残して逃げたシンデレラは
彼女を忘れられない王子によって
見つけ出されただろう?
「……わかって、いたわ。」
少女は哀しそうに笑う。
それは魔法が解けてゆくことに対してなのか
魔法の代償が、こんなにも重かったことに対してなのか