彼は何時でも私達より大人だった。

私は何でも知っていて何でも教えてくれる彼が好きだった。

でもその「好き」に種類があるなんて事を馬鹿な私でさえ知っているのに

恐らく彼は、知らない。







彼の封印が全てを見通すその瞳だと知った時、とても悲しくなった。

この封印が解けるまでは、彼の理知的なオッドアイを見ることは叶わない。

この子は果たして、彼の封印を解いてくれるのだろうか

この封印を解く為なら、私はどんな事でもしようと思った。

私の頼りない力でも、彼の封印を解く為ならと思うだけで少しは増した様な気がした。

彼は昔私に良く言ったものだ

「ミエリは、力を求める必要は無いのですよ」

「どうして?私だって皆の様に強くなりたいのに」

「貴女の、他の誰にも無い優しさを、力を得ることで失う位なら、力を求める必要なんて、無い。」

嗚呼、あれは確か昔々、最初の預言書の持ち主が、世界を変えるのに失敗した後だった。

その時の主は普通の、心優しい青年だった。

けれども世界を変える力を手に入れた事で、その優しさも慈悲深さも、全て全て、失ってしまった。







預言書に眠りにつく前、暴徒によって原形を留めなくなるまでに破壊された元主の死体を前に、彼は私の目を覆って言ったのだった。

「私は優しくて強い人になれたら良いの。ウルみたいに。」

「私の優しさは貴女の物とは違います。それに私は弱い。」

「ウル、私は、」

「ミエリ、貴女は貴女のままで良いのですよ。そんな貴女だから好きなのです。変わらないで、…それが私達3人の、標になる。」

囁くように私の耳元でそう言った彼はそのまま眠りにつき

それから幾度となく目覚め、また眠りにつく度に彼は私にそう言った。

”変わらないで、変わらない貴女が好きなんです”

それが彼の望みなら私はそれで良い

それで良かった筈だった。







その日は雨だった。

新しい主はティアという名の少女で、とても健気で可愛い。

既に精霊は3人そろった。

後は”彼”、だけ。

「……」

振り向けば、袖をネアキが引いていた。

「何?どうしたのネアキ?」

「……」

声を封じられた美しい氷の精は、その大きな琥珀色の瞳を少し伏せている。

「?なんでそんな顔――…」

唐突に目の前が明るくなって、数秒と空かずにごろりと雷鳴が轟いた。

きゃ、と洞窟で雨宿りをしていた少女が悲鳴を上げ、身を縮こまらせる。

けれどそんなに驚く事も無いんじゃないかと私は思っていた。

だって彼はいつだって私達に優しくて厳しくて、この雷鳴だって彼そのものの様なもので

「……」

ふるふるとネアキは首を横に振る。彼女は似合わない程の、とても困った顔をして此方を見ていた。

「ネアキ、どうしてそんな顔、」

するの、という前にまた雷が鳴った。

ネアキがそっと、私の頬に手を当てる。その小さくて細い指が、私の目尻を掬った。

「……」

「え……?」

掬われて初めて分かった。私は泣いている。

「え、あれ…?私、どうして、」

うろたえたと同時に、ふわりと微かな冷気が私を包む。

ネアキの柔らかな冷たさは、とても、心地よかった。







       

―――  そ  し  て  ま  た  ず  っ  と     り  返  す

       







「好きですよ、」

そう言ってくれた彼に私の気持ちはきっと分からない。

だから何回この世を繰り返しても私は彼がいない度にこんなにも悲しくなるのだろう。

変わってしまえばいいと思った。

そうすればきっと、変わらない私を「好き」な彼は居なくなるだろう。

その「好き」が「愛」じゃないことなんて分かってる。







でもそれを言えない私はきっと

その「好き」さえ失うのが怖くて何も変われない




そしてまたずっと、私は弱いまま。







**********
女子精霊二人可愛い!と滾っている白虎です。
そしてウルミエ好きだよウルミエ。天然ミエリちゃん悩む、の巻です。
ネアキは人一倍ミエリには優しいと良い。あ、ティアにも。
ティアの旦那はワーマンで一つ(待
実際のゲームでは旦那はアンワ―ルだったりウルだったりしてますが基本うちのティアは宰相様に会う為に地下牢にばっかり行ってます。
宰相様何歳なのかなぁ、相手にしてくれるかなぁ、エエリさんに相談したらアンワ―ルの事言われそうだしなぁとか考えてると良い。
ナナイさんは多分自分の事で手一杯あのお姉さん。ヒスナナ!